ホタテ貝の刺身は北海道や東北など現地でしか食べることが出来なかった?
そうなんです。
今は、東京や大阪などの都会でも鮮度良いホタテ貝の刺身を当たり前のように食べることが出来ますが、以前はホタテ貝の産地に行かなくては食べることが出来ませんでした。
当時、東京の築地市場を始めとする各中央市場へのホタテ貝の搬送はトロ箱と呼ばれる木の箱に水揚げしたままの殻付きのホタテ貝を並べ、ざっくりと氷を掛けた状態でトラック便または貨車便のコンテナで運ばれていました。
北海道から東京へは中二日ほど掛かり、着いた時には死んではいないが生で食べるような状態ではありませんでした。もっともこのような状況ですのでホタテ貝を生で食べるという慣習もなく、ほとんどが焼く、煮る、揚げるなどの調理法が主流でした。
今でいう居酒屋、当時は大衆割烹や大衆酒場などと呼ばれることがほとんどで、ホタテ貝のメニューといえば「ホタテバター」いわゆるホタテのバター焼きが出されていましたね。
今ほど多種多彩のホタテ貝のメニューがあった時代ではないのでシンプルな調理法がほとんどでした。ホタテバターも大筋で二つ。
一つは貝殻のまま焼くタイプ。
ホタテ貝の殻の平らな方の殻を外し、お酒少々を振って直火にかけます。ふつふつとしてきたらお醤油をかけ、最後にバターを乗せ出来上がり。磯の風味豊かな一品です。
もう一つは身だけをソテーする方法。
殻から外したホタテ貝に軽く塩コショウをして小麦粉を付け、フライパンでバター焼きにする方法です。
どちらも美味しいですね、好きでした。
とくにフライパンでのソテーでは火加減によりバターが少し焦げてしまう事があり、この焦げた香りがまたいいもんでした。ビールに良く合うんです(笑)。
ホタテ貝を刺身で食べることが出来るのは流通革命がすべて!
ではないかと思います。
当時水産市場の若手が活きたままホタテ貝を入れられないかと浜の業者に打診したところから現在の流通方法が始まったとされています。
しかし最初は失敗、試行錯誤の連続だったとか。当然のことながら。
とりあえず活きたまま届けるには海水だろう。ということでホタテ貝を海水に入れて搬送する方法です。ここで登場するのがトロ箱に代わる現在主流の発泡スチロール箱。
発泡スチロール箱にホタテ貝を入れ、海水を入れ出荷する。これで大丈夫だろう。
ところがそうは問屋が卸さない。
ワクワクドキドキ、市場に初めて着いた海水入りのホタテ貝。
その箱を開けた瞬間漂う異臭。水は濁り貝は全部開きすべて死んでいる。
「こんなもん売り物になるか!」「海水入れて送れって言ったのはそっちだろう!」とさんざんやりあったようですね当時は。
でも諦めることなく、海水の温度、雑菌を処理した海水、輸送手段など試行錯誤を続けた結果、現在のように新鮮なホタテ貝が東京でも食べることが出来るようになりました。
発泡スチロール箱での鮮魚の流通が本格的になったのは恐らくこの頃からでしょう。
保冷、保水に優れた発泡スチロール箱と迅速な流通経路の普及が、都会にいながら新鮮な魚介類を食べることが出来るようになりました。
今では当たり前のようにスーパーなどでも活きたホタテ貝が手に入りますし、殻付きでなくても刺身用のむき身も売られています。
お刺身以外でも様々なお料理に新鮮なホタテ貝を利用できる昨今に感謝です。